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冬の読書つれづれ [〜老眼はつらい〜]

この一ヶ月余りで、例によってジャンルに拘らず読んだ本を羅列します。
途中に小林秀雄なんぞを久しぶりに読み始めたら、急に読破ペースが緩んでしまい、とりあえず彼の作品には丁重にしおりを挿み、次の本に浮気してしまっている状態です^^;

猿の証言 (文春文庫)

猿の証言 (文春文庫)

  • 作者: 北川 歩実
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2010/10/08
  • メディア: 文庫
文庫本は、レコードのジャケ買いのような衝動買いはまずしないのだが、めずらしくこの本には手が伸びてしまった。
「類人猿は人間の言葉を理解できる―井手元助教授は、天才チンパンジーを使った実験のテレビ収録を試みるが失敗に終わる。大学を追われ、失踪した井手元。残されたチンパンジーは井手元が殺されたと“証言”した!やがて浮かび上がった、人類のアイデンティティーを揺るがす禁断の実験とは?“早すぎた傑作”待望の復刊。」
この宣伝文句と不可思議な表紙に興味をそそられた訳である。

SFミステリーに分類されるのであろうが、単純な犯人探しに終始しない処が数多のミステリーと一線を画する。
生態学や遺伝子工学という一般人には程遠い学問が、解りやすくかつ論理的な説明としてストーリーに織り込まれており、あたかも人間とチンパンジーの混血が実在してしかるべきといったイメージを読者は持たされてしまう。
江森・新谷両名の事件への必要以上の入れ込みようと、度重なる容疑者の死による二人の推理の瓦解は、多少あざとい感覚も伴う。が、幼少期の「スプーン曲げ事件」のよる二人のトラウマが、ストーリーのもうひとつの伏線にもなっている。
未だ見ぬ「チンパースン」が頭をよぎる中、物語は二転三転し、読者を小パニックに陥いらせ、愛憎渦巻く見事なエンディングで作品のテーマを叩き付けて来る。

人間の狂おしいまでの自己顕示欲と果てる事なき科学への探究心。禁忌への畏怖と挑戦。そして母なる存在とは、母の定義とは・・・

単なる復讐劇では表現できない人間の罪深さを、科学という極めて数理的な分野から生々しい血の因縁に変遷させる事により、おぞましいまでに描いた秀作だと思う。


邪馬台国はどこですか? (創元推理文庫)

邪馬台国はどこですか? (創元推理文庫)

  • 作者: 鯨 統一郎
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1998/05
  • メディア: 文庫
歴史の常識と言われる事件を、数々の正式なデータを元に覆す爽快歴史学術書。
「岩波新書」風に生真面目に論じてもさまになる所を、場末のBarに集う客とマスターの会話形式にしたユニークな評論である。
読みやすい上に、斬新な発想の転換が心地良い。
歴史上の大きな事件や人物に焦点を合わせ、6つの章に分かれている。

①仏陀(ぶっだ)  「ブッダは悟りを開いていない」
②邪馬台国     「邪馬台国は東北地方にあった」
③聖徳太子     「聖徳太子と推古天皇が同一人物」
④織田信長     「本能寺の変は信長の自作自演の自殺」
⑤明治維新     「明治維新の黒幕は勝海舟」
⑥イエス・キリスト 「キリストの復活はトリック」

六章すべてが一見、荒唐無稽なこじつけ話に聞こえるが、歴史上の確証を積み上げていけば、多くの解釈が生まれる可能性を示唆しており、教科書で教えられた事が決して曲がらない史実だとは限らないのである。
キリスト編の「イエスの磔は、直前にキリストとユダが入れ替わっており、処刑されたのはユダである」という『奇蹟』の証明は特に興味深かった。(こんな話しは冗談でもキリスト教国ではできないだろう)

確かに神話や偉人伝と呼ばれるものの多くは、後日に歴史上の勝者によって編纂されており、それが時の為政者に都合良く歪曲されていても不思議ではない。

だからこそ「歴史の浪漫」とは無限大であり、尽きることの無い夢を魅せてくれるのである。


ナラタージュ (角川文庫)

ナラタージュ (角川文庫)

  • 作者: 島本 理生
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2008/02
  • メディア: 文庫
突如、恋愛小説[ムード]を読みたくなり、手に取った本がこれ。

作者が21歳の時の作品なのだが、あえて自分の娘に近い年代の著者を選んだ。
いい歳の男が書く甘ったるい小説には辟易するが、若い女性の恋愛観を覗きみたかったのは事実。
されど、今時のネット小説の絵文字まで飛び出してきそうなライトな感覚は苦手で、「日本語」を大事にした小説を探していたのである。

この恋愛小説がすごい!2006年度」の第一位に輝いた作品で、いかにもに若い女性の共感を集めそうな内容である。女子大生・泉の一人称で綴られる女心が瑞々しい。こんなオッサンが感情移入するのは不可能までも、現代女性の思考回路と女性本来の逞しさを垣間見れる。
それと対比する形で、男性陣の女々しさが際立っており、オッサンは「もっと小野も葉山もシャンとせんかい」と説教したくなるのである。
高校教師と元教え子の純愛小説の形式をとりながら、男女の根本的な「人を慈しむ心の有り様」の差を描いているように感じた。人を愛した記憶を重ねながらも成長できる女性と、記憶との決別にいつまでも苛む男性。
やはり女は偉大なる海であり、男はその中で戯れる魚なのかもしれない。
バスルームで泉が葉山の髪を切るシーンが非常に印象的であった。

こういう美しい文章を書ける作家は好きだ。(さすが芥川賞候補常連作家である)

三たびの海峡 (新潮文庫)

三たびの海峡 (新潮文庫)

  • 作者: 帚木 蓬生
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1995/07
  • メディア: 文庫
「閉鎖病棟」以来、久しぶりに彼の作品を読んだ。
戦時下での朝鮮人強制連行を題材にした骨太小説(フィクション)である。
「従軍慰安婦」で一時はマスコミ等でも大きく採り上げられ議論となった戦後補償問題も、終戦65年を迎え、日本人の脳裏からは次第に薄れている。
自分の戦争感を述べるつもりはないが、歴史的事実とは常に勝者によって語られるものだし、また真実とは必ずしもひとつではない。ゆえに戦時中の歴史的検証がなされた日本軍の行為は事実であるし、またその事実のみがすべてであったとは考えない。

喧嘩の仲直りでよく出る話しだが、「殴った方はすぐ忘れても、殴られた方はずっと覚えている」のである。
そういう意味でも、この小説は、「近くて遠い国」と言われる隣国との関係を、殴りつけた痛みを忘れてしまった拳を見つめ直すには最適だと思われる。

朝鮮半島に住む一青年が故国から日本に連れられ、九州の炭坑で常に死と隣り合わせの重労働を科される。
日本人作家が、その青年の視点で一人称で描く炭坑内での生活は鬼気迫るものがある。
その地獄から抜け出した青年が日本人女性と恋に落ち、身重の彼女と故国に帰る過程はさらに胸に熱くさせる。
故郷で親子3人の貧しいながらも幸せな生活が始まろうとしたのも束の間、彼女と赤子は日本に連れ戻される。
それから40年が経過し、彼は人生の清算をすべく再び日本の地に足を踏み入れるのだった・・彼にとって3度目の海峡を渡る旅だった。

前述のように歴史社会的な見識を高めるだけでも秀逸な小説であるが、それ以上に崇高な「血と地の連なりの強さ」を感じずにはいられない。故郷の土と民族の血そして親子の血。いかなる障害や災厄に会おうと、人間である限りこの繋がりだけは決して失われない事を。

ラストの主人公の遺書に綴られた命を賭けた復讐が、作品のトーンを萎えさせたように感じ、唯一残念でならない。

溺れる人魚 (文春文庫)

溺れる人魚 (文春文庫)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2011/02/10
  • メディア: 文庫
ミステリー短編集。
溺れる人魚」「人魚兵器」「耳の光る児」「海と毒薬」から成る。

肩肘はらずに軽快に読める良作。
厳密にミステリー然としているのは表題作のみである。
「海と毒薬」を除いては、主人公のポーランド人シュタインオルトの体験を科学・医学的背景を元にノンフィクション風に綴っている。
3編に共通するのは、果てしない科学者の探究心によって犠牲となる人々の話しであるという事。
猿の証言」のテーマとも一部酷似しているのは偶然であろうか?

科学・医学の進歩が世界の繁栄に繋がったのは言うまでもないが、その陰で歴史に埋もれた悲劇が数多あったであろうと作者はサラリと描く。

3編とは関連性の無い作品である最後の「海と毒薬」が、アンデルセンの『人魚姫』をテーマに据え、哀しく恐ろしい人間の性(さが)を浮かび上がらせる。利己的な人間を愛したが為に、海の泡となった人魚姫の儚き魂が、4つの短編を最期に結びつけさせる、なかなか洒落た構成に拍手であった。


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DEBDYLAN

地震大丈夫ですか?
無事祈ってます。

また遊びにきますね。

by DEBDYLAN (2011-03-11 22:43) 

haku

木更津も相当揺れましたが、大きな被害は出てません
そちらは大丈夫でしょうか?
by haku (2011-03-11 23:24) 

つむじかぜ

ビルの15Fに居ましたので、恐ろしいほどの大揺れでした。耐震構造とは聞いていても、生きた心地がしなかったです。
今、自宅に戻りましたが、東京・下町は概ね無事のようです。夕方まで連絡の取れなかった家族も無事帰還していました。(建築中のスカイツリーも大丈夫です)
東北地方の状況を知る程に胸が痛くなります。
by つむじかぜ (2011-03-12 02:12) 

DEBDYLAN

無事でよかったです。
僕の方にもコメントありがとうございました。

本といえば、
僕は最近は音楽関係の軽いヤツしか読んでないんです^^;

by DEBDYLAN (2011-03-13 01:46) 

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