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初夏の読書〜吉村昭づくし〜 [〜老眼はつらい〜]

震災以降、読書のペースが落ちてきた。

自分では平常心を保っているつもりだが、真摯に本と向き合う気持ちが少々欠けていたのかもしれない。
「ペースを戻す為には、短編集が良いだろう」という事で・・・

名短篇、ここにあり (ちくま文庫)

名短篇、ここにあり (ちくま文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2008/01/09
  • メディア: 文庫

よし[exclamation]ペースを掴んだぜ[手(チョキ)]
珠玉の名短編を推薦してくれた北村薫・宮部みゆき両氏に感謝である。
二人が選考した12の短編は、ほとんどミステリーの範疇と呼べる小説ではあるが、背筋が凍るような話から思わずクッと苦笑いするもの、???連続の不可思議なお伽噺風まで、非常にバラエティに富んでいる。

その中でも異質な光を放って私を狼狽させた一編は、吉村昭の初期の作品「少女架刑」
儚い死を遂げた少女が、死んでいる彼女の視点から、献体された自分の体が研究用に切り刻まれ、最期に荼毘に付され灰となる過程を、淡々と美しい文体で綴られていく。戦慄が走った短編だった。

吉村昭の小説は羆嵐しか読んだ事が無く、彼へのイメージはノンフィクション小説家として固定していたので、この短編は驚きであった。

そして
三陸海岸大津波 (文春文庫)

三陸海岸大津波 (文春文庫)

  • 作者: 吉村 昭
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2004/03/12
  • メディア: 文庫

密林では一時品切れ中だったこの作品が、銀座のブックファーストで山積みされているのを見つけ、即購入。

この作品は、私の吉村昭のイメージ通り。
徹底した史実調査を元に、明治29年・昭和8年・昭和35年の三度の三陸海岸を襲った津波の記録を、曖昧な感傷などは一切排除した筆致で書きつらねている。
昭和45年刊行ということで、明治29年の被災者の生々しい証言も収められており、膨大なデータとその検証と共に、当時の災害状況が詳細に伝わってくる。岩手県田野畑村羅賀では、明治の大津波が、海抜50メートルの小高い丘に建つ民家までせり上がって来た事実は衝撃的であった。小学生の作文集も公開されており、幼い目に映った惨状は胸を突く。

そして当然、現在の読者は、今回の東日本震災との対比を否応無しに求められる
インフラが未整備の明治・昭和初期での官民一体となった救援体制も詳細に記録されており、現在のなにかと批判の多い政府の対応との比較も興味深い。ともあれ情報の少ない近代においても、被災地への国民の支援の輪は、今も昔も変わらぬ日本人の一体感を感じさせる。
小説は、度重なる災害に対しその対策が進み強化された事にも触れている。高所への住宅移動、非難訓練、防潮堤の建設、なによりも住民の津波に対する認識の深化。
明治29年 2万6360名
昭和8年 2,995名
昭和35年 105名
津波の規模や種々の要素により単純な比較はできないが、確実に死者数は減少傾向にあった。
「津波太郎」とまで冠せられた2度の壊滅的打撃を受けた岩手県田老町では、昭和33年までに日本最大規模と呼ばれる防潮堤を完成させた。「津波は時世が変わってもなくならない、必ず今後も襲ってくる。しかし、今の人たちは色々な方法で十分警戒しているから、死ぬ人はめったにないと思う」明治の大津波から3度の被災を経験した長老の話で小説は結ばれている。

photo.jpg
報道の通り、この防潮堤でも今回の20メートルを越す大津波を防ぐ事はできなかった。
しかし逆に、この防潮堤が無かったら、被害は想像を超えた規模になったのも明白なのである。

人間と自然との戦い。
「津波が来るからといって、宝の海を捨てられるものか」と、故郷の低地に戻り、命を落とした人たち。
繰り返される人間の過ちと故郷への熱き想い。自然に対峙する人間の叡智と努力。
それを丸ごと飲み込んでしまう人智を超えた自然の力。



徹底した調査と資料収集によって、過去の多くの犠牲者の声なき声を伝え、次代への警鐘を記した壮絶な記録小説である。

そして、今を生きる我々も、今回の震災(原発も含めて)を次代に語り継いでいかねばならない責務にある事を痛感させられた。同じ惨劇を繰り返さぬ為に。

勢いで吉村作品を続けて・・・
戦艦武蔵 (新潮文庫)

戦艦武蔵 (新潮文庫)

  • 作者: 吉村 昭
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2009/11
  • メディア: 文庫

膨大な資料に圧倒される記録小説である。

大和」と「武蔵」が同時期に造られた全く同型の戦艦であった事を初めて知る。
「戦艦大和」は、帝国海軍最期の巨大戦艦としての逸話の多さや「宇宙戦艦ヤマト」の強烈イメージの為、戦争を知らない世代でもその名を知らぬものはいないが、戦艦武蔵についての実態を知る人は圧倒的に少ないと思われる。
その「戦艦武蔵」の設計から建造、実戦配備から沈没に至る『一生』を克明に描いている。

普通の戦争小説ならば、勇ましい海戦を中心に書かれても不思議ではないが、そこは吉村昭。
小説の大半の頁は、竣工に至るまでの詳細な記録に費やされている。
この巨大戦艦が、如何に秘密裏に建造できたかの謎をひとつひとつ解き明かすように、膨大な資料からの解析により、緻密な建造日誌のごとく克明に記されいるのは驚嘆である。当時の関係者の腐心が手に取るように解る筆力は圧倒的だ。

時代はまさに、海戦の雌雄を決するのが、戦艦の火力差から、戦闘機の機動力に重きを置く空母の運搬力に変わりつつあった。明白な戦術の変化を認識しつつ、日本は世界一の巨大戦艦の建造に邁進する。この非論理的な判断が、いつしか浮沈戦艦「武蔵」の神話を形成し、「武蔵」が沈まない限り日本は負けないという妄信に繋がっていく。
勝算のない日米開戦を踏み切った軍部の愚かな判断が、日本国の「集団自決」となった事実。作者は、武蔵の一生を伝える事で、当時の我が国の狂信的風潮を暗に批判しているように思われた。直接的な表現は何も使わずに。

壮絶な最期の描写は哀切このうえない。
米側は武蔵を日本の精神的支柱と見るや、他艦には目もくれず執拗に集中攻撃を繰り返す。
6度に亘る米軍機の攻撃により、魚雷20本・爆弾17発・至近弾20発以上の大損害を受け、遂に武蔵はフィリピン・シブヤン海に沈む。無数のコヨーテに執拗に襲われながらも走り続けた一匹の巨象が、徐々に切り刻まれ、血を流し尽くし、最期に絶命したように。

作者は、戦艦武蔵を戦争を象徴化した一種の生き物として描いた。
その生物の生涯を、作者自身の主観を徹底的に排除して克明かつ淡々と描く事により、「武蔵」を生んだ世相(=戦争を選んだ日本の風潮)を強烈に指弾しているように思えて仕方ない。
この一大叙事詩は、単なる戦争記録小説の範疇を超越した昭和文学の金字塔である。

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コメント 4

haku

最近さっぱり読書してないんですよ (><)
この3冊、どれも惹かれますねぇ!!
by haku (2011-05-18 18:23) 

つむじかぜ

>haku様
たまには、ちょっと骨太な小説もいいもんですよ^^
by つむじかぜ (2011-05-19 00:28) 

Labyrinth

(^_^)ノ こんにちは。
読み応え有りそうな御本ばかりですね。
ご紹介ありがとうございます!
by Labyrinth (2011-05-19 12:03) 

つむじかぜ

>Labyrinth様
名作と出会った時の感動を求めて、映画と小説は止められません^^
by つむじかぜ (2011-05-20 00:26) 

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