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『シャンタラム』&辻仁成 [〜老眼はつらい〜]

書籍のレビューは映画と違い難しい。
少年期に、夏休み中の読書感想文の宿題に毎年悩まされた体験がトラウマになっているのか?
映像を自分の言葉で表現するのは簡単でも、すでに文字になっているものを、自分の言葉に変えるのは、オリジナルを冒しているようで苦手である。
 
てな訳で、本の話題が暫く遠のいてはいたが、月2、3冊のペースでは老眼に苦しみながらも読んではいたので、久方ぶりに最近のお気に入りを少々ご報告。 
 
まずは、私にしては珍しく長編大作にチャレンジ[パンチ]
 
シャンタラム〈上〉 (新潮文庫)

シャンタラム〈上〉 (新潮文庫)

  • 作者: グレゴリー・デイヴィッド ロバーツ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2011/10/28
  • メディア: 文庫
シャンタラム〈中〉 (新潮文庫)

シャンタラム〈中〉 (新潮文庫)

  • 作者: グレゴリー・デイヴィッド ロバーツ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2011/10/28
  • メディア: 文庫
 
 
 
  
シャンタラム〈下〉 (新潮文庫)

シャンタラム〈下〉 (新潮文庫)

  • 作者: グレゴリー・デイヴィッド ロバーツ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2011/10/28
  • メディア: 文庫
 
世紀の[ぴかぴか(新しい)]大傑作[ぴかぴか(新しい)]である[exclamation×2] 
 
人生50年のオッチャンでも、久しぶりに魂を揺さぶられる大作であった[どんっ(衝撃)]
 
この小説を敢えてジャンル分類するならば、読者のスタンス・感性によって幅広い分野にまたがるであろう。
 
血湧き肉踊る任侠ギャング・ハードボイルド小説
すれ違う男女の機微を描いたラブロマンス
謎が謎を呼び陰謀渦巻くサスペンス
人間の善悪から宇宙論までを説いた哲学書
バックパッカーが悦ぶインド旅行案内
etc.・・・・
 
こうように書くと、多くの要素を欲張り過ぎたとりとめの無い作品に思えるかもしれない。
しかし、作者の実体験を元にした壮絶な一人の男の半生を、見事なまでの構成力によって綴られた「一冊の人生のバイブル」として完結しているのだ。
 
強盗の罪で服役中のシドニーの刑務所から脱獄、インド・ボンベイへ逃亡。スラム街で無資格の町医者として潜伏。
やがて街のマフィアのドンにスカウトされ裏社会に身を落とし、ついにはイスラム戦士としてアフガニスタンにて戦争に赴く。主人公シャンタラム(通称リン・ババ)は、脚色されたとはいえ、筆者グレゴリー・デイヴィット・ロバーツのそのものなのだから驚きである。 
 
主人公の数奇な運命の行方に胸ときめかせて頁をめくっていると、随所で多くの人間によって語られる「人生訓」のような言葉に行き当たり、そのめくる指を止めざるを得なくなる。自分のしがない過去の体験とも重ね合わせながら、その「言葉」の意味を噛み締め、今まで歩いてきた道とこれから歩まざるを得ない道に想いを巡らせる。
 
そしてリンが巡り会う人々の描写の素晴しさ〜まさに人間そのもの。人種・国籍・境遇・・・各々が背負った荷物は違えど、限りある命を振り絞りながら、みな光輝いている。スラム街のタクシー運転手・ブラバカル。魅惑のスイス出身のビジネスウーマン・カーラ。崇高な信条を貫くマフィアの首領・カーデル。リンの人生を左右する主要人物以外も魅力溢れる登場人物が目白押し。一冊の小説そのものが息づいている。
さらに、珠玉の言葉が場面場面でとめども無く流れ、心の琴線に突き刺さる。 
 
リンが貧しくも穢れなきスラムの住民ブラバカルに聞く。
「苦しみってなんだい?人が苦しむってどういうことだと思う?」
「そんなのは簡単なことです。苦しみというのは飢えのことです。他に何が苦しいっていうんです。何かに飢えていなければ、何かに苦しんでいることにはなりません。そんなのは誰でも知っていることです。」
 
知的なカーラとの会話に、彼女のシニカルな一面が見える。
「真実というのは私たちみんなが好きなふりをしている、いじめっ子みたいなもの」
「人生があなたを笑わせなかったなら....それはあなたにオチがわからないだけのこと」
「最悪の惨事は物事を変えようとする人々によって惹き起こされる」 
 
カーデルは禅問答のような問いかけをリンに度々おこなう。
「善い人間も悪い人間もいない。それが真実だ。善と悪は人のおこないの中にあるものだ。善いおこないと悪いおこないがあるだけのことだ....人がどんなおこないをするか、あるいはどんなおこないをすることを拒むかが人を善と悪に結びつけるのだよ。」
「ときには正しい理由から、まちがったことをしなければならないこともある。大事なのは、その理由が正しいものであると確信し、自分はまちがったことをしていると認めることだ〜自分に嘘をつかず、自分がしていることは正しいことだと自分を納得させなければならない。」 
 
最終節でのリンの回想は、私自身の過去にそして、もう少し残っているであろう自分の未来に、「後悔先に立たず」と共に「もっと違う自分との出会い」に胸熱くさせるのであった。
「私はずっと思っていた。運命は変えられないものだと、生れ落ちた瞬間に定まるものだと、星の軌道のように揺るぎないものだと。そうではないのだ。人生はもっとずっと奇妙なものなのだ。もっとずっと美しいものなのだ。たとえどんなゲームに巻き込まれようと、どれほど運が良かろうと悪かろうと、たったひとつの考えで、たったひとつの愛の行為で、人生を完全に変えることができるのだ。」 
 
こんな凄い小説を10代の頃に読んでいたら、私はなりふりかまわずリュックサックを背負ってインドに旅立っていたと思う。 

リンの友人ヴィクラムが話す。
「ここはインドなんだ。ここは“心の国”なんだよ。ここでは心が王様なんだ.....二百も言語があって、十億もの人間が住んでるこの国を。心がインド人をひとつにしてるんだよ。インド人みたいな心を持つ国なんてほかにはないよ。」 
 
圧倒的な筆致と構成により、『人間が生きるということの素晴しさ』を謳った、まさに現代の「千夜一夜物語」だ。
 
ジョニー・デップ主演で、この映画化権をワーナーブラザーズが獲得も、いまだクランクインされていないようだ。
絶対に観たいが、どこまで原作のリアリティに迫れるかが問題だな。 
 
この小説には『素敵な言葉』が多過ぎて、文庫本は付箋紙だらけになってしまいました[がく~(落胆した顔)]
たまたま見つけた「カンミ堂・ココフセン」というフィルム付箋紙が、優れものにて大活躍[ひらめき]
おしゃれなカラーリングと扱い易さ。Sサイズはケースごと文庫本の表紙の裏に張り付けても邪魔にならない。
 
 
 
お次は大好きな小説家であり、私が唯一嫉妬する有名人・・・辻仁成
 
右岸 上 (集英社文庫)

右岸 上 (集英社文庫)

  • 作者: 辻 仁成
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2012/02/17
  • メディア: 文庫
右岸 下 (集英社文庫)

右岸 下 (集英社文庫)

  • 作者: 辻 仁成
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2012/02/17
  • メディア: 文庫
江國香織との共作。といえば、辻が男性、江國が女性の視点から書いた『冷静と情熱のあいだ』が思い出される。
今作は十何年ぶりに、そのスタイルの再現である。この『右岸』に対し、江國は『左岸』という、対岸に立ち見つめ合う男女を見立てたような題名だ。
辻仁成は、小説の内容・構成により文体を変えるカメレオンみたいな小説家である。直木賞作家の江國ファンも読む事を想定した『右岸』は、芥川賞作家にしては、非常に読み易い文体と構成だと思う。
 
設定がユニーク過ぎる。主人公は「巨根の超能力者」祖父江九。小生とは双方とも全く縁の無い能力です[あせあせ(飛び散る汗)]
九の幼少期、隣家に住む惣一郎・茉莉兄弟との交流から物語は始まる。スプーン曲げに目覚め、注目の少年になるも、TV番組で能力を出せず詐欺師扱い。そして若過ぎる惣一郎の自死。サーカス団での家族3人の幸福も束の間、父の死。以来、屈折した青年期を過ごしながらも、日増しに膨らむ茉莉への想い。悔恨の茉莉との一夜から海外へ放浪の旅に。記憶喪失となって帰国、茉莉との再会。
更に強まる超能力を自在に操りながら、九は真理探究の道に踏み出して行き...
 
「スピリチュアル」な作品というより「魂の物語」だ、いや「魂の扱い方の指南書」である。
九の数奇な人生を通して、「人それぞれが持つ能力を、生きていく過程でいかに使うか」を訴える。
 
「駆けっこが得意な人、暗算が得意な人、体の柔らかい人、おしゃべりの得意な人、人間には人それぞれに特別な才能があるやろ。ぼくはただスプーンが曲げられるだけやん。」「神様は深い意味があって九ちゃんにその力をお与えになったと。人生の中からその本当の意味を探す方が大事やけん。」...これ小学生の会話なんですけど[あせあせ(飛び散る汗)]
 
辻仁成氏自身のポジティブな生き様そのものを、敢えて非現実的な設定に押し込む。とにかく九の人生は悲しみの連続であり、愛する者との悲痛な別れが常について回るのだ。「いかなる悲しい場面に遭遇しても、そこに人生の意味と有り難みを見つけなさい。その後の人生がまた違って見えるはずだ。
そんな九が50歳を過ぎた頃に、常に彼の隣にいるのが、一度も結ばれる事のなかった初恋の女性・茉莉。近づく死を薄々感じながら、生きている事に大いに感謝する九の姿が見える。
 
小生も五十を過ぎる身となり、最近は「生きている」よりも『生かされている』実感が強い。別に恋女房に餌付けされている訳ではなくて、身近な人間とりわけ自分より若い者の死を目の当たりにしたりすると、自分が生きながらえているのは、何か理由があるのかと考える。さしたる才能も、世界平和に命を賭ける意気地も無いのだが、常に感謝の気持ちを持って生活すべしが信条なのである。プライベートであれ仕事であれ、せめて関わった人達に男女関係なく、明るい光が降り注ぐよう日々生き抜いてみたいと思う今日この頃。
 
同じ辻仁成作品でも、実はこちらの方が小説の傾向としては断然好きなのですが・・・
ダリア (新潮文庫)

ダリア (新潮文庫)

  • 作者: 辻 仁成
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2012/04/27
  • メディア: 文庫
こちらも「スピリチュアル」なのだが、「右岸」とは対極のダークな香りが立ちこめる。
グロテススク場面さえも美しさを感じる、私の偏愛する彼の文体が随所に顔を出す。
精神の普遍性を、時空を行き来するダリアという青年と3世代の家族との関わりを通じて描く。
登場人物の誰が生きていて、誰が幽霊なのか?チャプターごとに時間軸は目まぐるしく変わり、読者は軽い錯乱状態に陥りながら、作者が模索する「生と死」の摂理に近づいて行く。
 
「〜命が消えたあとにも、あなたの世界は残るのだから」 
 
ロック・ミュージシャンから作家に転身して20年を迎えた辻仁成が紡ぐ命の言葉たち。
 
南果歩をボロ雑巾のように棄て、中山美穂をモノにし偉そうにパリに暮らす、憎むべき同世代の天才。
この絶対的な嫉妬心は近親憎悪に近い。時代感覚、芸術嗜好、女性の趣味...小生の持つモノと結構カブるのだ。
その上、彼は自分の弱さ・汚さを隠す事なく、美しい日本語で自己を、一片の破綻無く表現してしまう。
凡人の小生には到底辿り着けない、堂々たる馬鹿正直な生き様。
愛して止まない小説家のひとりである...[ダッシュ(走り出すさま)] 
 
 「エコーズ」は当時は全く聴かなかったのだが...青春してるなぁ〜[わーい(嬉しい顔)]
このリードヴォーカルが後に芥川賞作家になるとは
 
 

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コメント 4

non_0101

こんにちは。
読書感想文は私も昔から苦手です~
本はけっこう読んでいるのですけど^^;

最近は体力不足で長編が読みにくくなっているのですけど
「シャンタラム」は凄そうですね!
涼しくなって体力が復活したらチャレンジしてみたいです☆
by non_0101 (2012-09-18 08:44) 

Labyrinth

『シャンタラム』
文庫本というのが気に入りました。(^m^)
ジョニー・デップ主演というのなら是非読まなくちゃ♪ ですわ(笑)

つむじかぜ さんを嫉妬させる辻仁成かぁ・・・ (^_^; 
初めて歌声を聞きました。 毎度ありがとうございます♪
・・・へぇぇ って感じでした(爆)
by Labyrinth (2012-09-18 23:44) 

DEBDYLAN

ミュージシャンだった頃は聴いてたなぁ。
作家になってからの作品は読んだコトないんですよ^^;

by DEBDYLAN (2012-09-18 23:57) 

つむじかぜ

>non_0101様
長編は体力がいりますよね。
でも「シャンタラム」チャレンジして下さい!

>Labyrinth様
映画化が永らく頓挫しているようで、少々心配なのですけど(・・;)

>DEBDYLAN様
私はミュージシャンの辻仁成(ツジジンセイ)は全く知らなかったのですが
(ツジヒトナリ)芥川受賞作「海峡の光」に、感無量でした。

by つむじかぜ (2012-09-20 00:32) 

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