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宇月原晴明〜『安徳天皇漂海記』『廃帝綺譚』 [〜老眼はつらい〜]

これは面白い!

安徳天皇漂海記 (中公文庫)

安徳天皇漂海記 (中公文庫)

  • 作者: 宇月原 晴明
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2009/01
  • メディア: 文庫






まず、こちらの本から読まないと始まらない。


源実朝・・・鎌倉幕府第三代将軍。武家の頭領としての資質に欠け、政(まつりごと)はすべて北条家に委ね、歌の世界に没頭した頼朝の子供。結局、親の敵と逆恨みした甥の公暁に、鶴丘八幡宮にて誅殺される。これにより、源氏直系の血筋は途絶える。北条家の陰謀と云われている   ・・・日本史の教科書を思い出せばこんなところか。

 

 この第三代将軍が、平家と共に壇ノ浦の海に消えたはずの安徳天皇とまみえるという荒唐無稽のセッティングからこの物語は始まる。朝廷と敵対しているはずの幕府の長の実朝が、実は帝への深い敬愛と忠誠心を秘めていた。自分の首を安徳帝に捧げる事と引き換えに、4番目の神器ともいうべき神珠を手に入れ、これを引き継いだ実朝の隠者が50年後の元寇時にこの珠を使い、元の大軍を壊滅させた。半世紀後の国難を予見し、自らの命を生け贄にして日本国を救った男として、実朝を描いたのが第1部。

 

第2部は、中国大陸に移り、なんとマルコ・ポーロが登場。クビライ・ハーンの統治する元の脅威に壊滅寸前の南宋最後の幼い皇帝・祥興帝に謁見した彼が目にしたものは・・・琥珀の玉に包まれた「日本の少年皇帝」〜安徳天皇の姿だった・・・

 

歴史的事実を歪曲した軽薄なSFフィクションに感じるかもしれないが、実はこの小説に嘘はない。多くの書物に記されている事実を、正確に綴っている。安徳帝入水と神器の紛失・真床追衾(まとこおうふすま)実朝の渡宋計画から誅殺〜消えた首。元寇。マルコ・ポーロの東方見聞録・崖山の戦いと少帝入水まで。あくまで、歴史書に記されていない舞台裏や謎を、作者の旺盛な想像力で描き、一大叙事詩ともいうべきスケール感溢れる作品に仕上げている。作者の古典に通じた文体や表現が、事実と想像を渾然一体化し、ノンフィクションとまで錯覚させる。

 

 

廃帝綺譚 (中公文庫)

廃帝綺譚 (中公文庫)

  • 作者: 宇月原 晴明
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2010/05
  • メディア: 文庫


 マルコポーロが書き記した「脅威の書」。ページが拳大にくり抜かれ、中には彼が「黄金島(ジパング)」から持ち帰った蜜色の珠が置かれている。 中国の歴代皇帝に引き継がれたきた秘宝である。

 

下巻ともいうべき「廃帝綺譚」は4部構成。3つの作品は、「蜜色の珠」が織りなす、廃れ行く皇帝=人間の哀しき魂を美しく描いている。元朝最後の皇帝トゴン・テムル(順帝)、明の皇帝・建文帝と永楽帝の確執、明朝最後の皇帝・崇禎帝。中国の史実に基づきながら、時の天子達の落日の姿を細やかに描いている。今年の北京旅行で、「明の十三陵」にも足を運んでいたので、読後の感慨もひとしおであった。

 「たとえどんなに似た輝きを放ったにしても、夕日は朝日とは違うのだ。」(111頁)

最終章の舞台は日本の隠岐島。承久の乱により配流された後鳥羽院の話し。ここで「安徳天皇漂海記」の第1部と重なって来る。倒幕を夢見て、実朝の呪詛に明け暮れた上皇時代。兄の安徳天皇崩御に乗じ、神器無きまま即位した経緯。実朝の首を抱えた兄との再会、荒海の中での崩御の場面が美しい。


 大海の磯もとどろに寄する波破れて砕けて裂けて散るかも 実朝


 我こそは新島守よ隠岐の海の荒き波風心して吹け 女房(後鳥羽院)


 二人の和歌が締めくくる、心憎いまでのエンディング。


 他に類を見ないスタイルの心揺さぶられる作品であった。



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『ラスト・チャイルド』 [〜老眼はつらい〜]


ラスト・チャイルド (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1836)

ラスト・チャイルド (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1836)

  • 作者: ジョン・ハート
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2010/04/09
  • メディア: 新書
 海外ミステリーの範疇とは、ほとんど縁がない。というか、元々、外国文学を避けている。美しい日本語の文体への憧れと、翻訳という過程により作家の感性が剥落されているのではないかという勝手な憶測により、ひとりよがりの国文学ファンを永年続けている。老眼の進行により、日を追うごとに、読破数が減っているが・・・

 たまたま先月、観たBS「週刊ブックレビュー」(最近、中江有里に会える確率が低くて残念なのだが)にて、出演者全員が絶賛〜海外ミステリーではあったが、勢いNET注文してしまった。実は昨年あたりから、「北村薫」がマイブームとなり、最近は、超純文学指向からSFミステリー路線に浮気中なのであった。

 一気に読めた。いつも読んでいる日本文学なら、電子辞書は欠かせないのだが、この本はノンストレスである。(このストレスも快感ではあるが)読めない漢字、意味不明の熟語が皆無。ミステリー系らしく、テンポ良く、ぐいぐいと引き込んで来る快感を、久しぶりに味わった。かと云って、安易・稚拙な文章ではなく、作者の持つ情緒性を自然な日本語に表現する翻訳家の感性にも魅力を感じる出来映えである。

 アスファルトが大地を傷痕のように、細長く真っ黒な火傷のように走っていた。(11頁)

 ふたりの肩が一度だけ触れ合った。ハントは電流が走り、青い火花が散るのを感じた。「ありがとう」静けさのなか、ふたりは並んでただじっとすわっていた。彼女は両脚を引き寄せ、両手で膝を抱えると、彼の肩に頭をもたれさせた。ハントは腕に細い腕が押しつけられるのを感じ、冷たい雨が窓を叩く音を聞きながら、彼女の肌のぬくもりを感じていた。「ありがとう」彼女は繰り返した。  ハントは身じろぎひとつせずにすわっていた。 (329頁)

 神の愛の力。 ジョニーはうなずいたが、その目はふたつの棺と、青く晴れ渡った高い空だけを見ていた。  雲ひとつない高い空を。 (448頁)

 巻末の解説で「どのようなぶざまな言葉でも、せつない心がこもっておれば、きっとひとを打つひびきが出るものだ」という太宰治の言葉が引用されていた。まさしく、それを実感する、心に響く小説だった。

 物語は、行方不明の妹を探す少年ジョニーを軸に、それに連なる事件と彼を取り巻く人間・家族の有り様を描きながら進む。読む人間により、感じるテーマの軽重は激しいかもしれない。私は、ジョニーのひたむきな家族への想いに感情移入すると共に、「血の成せる途方も無い力」(神の遣わせたフリーマントルにも繋がる)に思いを馳せた。
 『闇は人間の心に巣くう癌』〜その闇は、どんなに善良な人間も持っている。ただ、病巣が肥大し、自分のその痛みを他人に向けた時、悲劇が生まれる。しかしすべて、『神様はご存知』であり、ひとの『人生は環』なのである。キリスト教義的に深くなると理解不能であるが、私流に云えば「お天道様に恥ずかしい事をしちゃ、いけねぇよ」であり、「この世はすべて因果応報で成り立っておるんじゃ!」である。

 脱線したが、永きに亘り綿々と連なる「ひとの想い」を、優しく美しい文体で綴った名作である。

 ふと、イーストウッド監督で映画化したら、凄い作品になるだろうと思った。

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